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コラム
ヘルパー=セラピー原則~援助し援助される、癒し癒される~
2026年6月
蔦
一般的に言って、援助関係とは、援助者が何かを与え、援助される側が何かを受け取ると思われがちです。しかし、例えば、電車やバスの中で、席を譲ると何となく気分がよくなったりすることがあるように、援助者も、決して与えるだけではなく、何かを受け取っているのではないかと考えられます。
ヘルパー=セラピー原則という言葉があります。これは、アメリカの社会学者フランク・リースマンが打ち出した概念ですが、単純に言えば、「人は援助することで自分も援助を受ける」というものです。援助する側は、他者に援助できる自分は善い人だという自己認知を持つことができ、それに基づいて自尊心や自立心を向上させたり、他者の役に立てるという自己有用感や自己の存在価値観を高めたりすることができると考えられます。
ヘルパー=セラピー原則は、広く人々の生活全般に当てはまります。例えば、支援の現場でこの原則を活用している例として、セルフヘルプグループ(Self-help Group:以下SHG)があります。自助グループ・当事者組織・本人の会などともいわれ、病気、障害、依存や嗜癖、マイノリティグループなど、同じ状況にある人々が相互に援助しあうために組織し、運営する自立性と継続性を有するグループです。SHGは、メンバーが抱えている問題や課題、グループとしての目的や活動内容、設立経過や規模など、グループを特色づけるあらゆる側面において多彩な様相を呈しており、一義的に論じることは非常に困難です。しかし、いかに多岐にわたっていようとも、SHGは共通の問題を持った人が集まり、お互いに助け合うために語りあうグループで、そこでは対面的な相互支援が行われているという共通性をあげることができます。
援助し、援助されることが同時進行のSHGでは、自分は他者に与える何かがあるという有能感を得、他者に役に立ったという喜びが付与されます。援助を受けなければ生きていけないだけの自分ではなく、他者を援助できるという自信から自立できていると感じられ、自分の人生を自分で決定しようとする意識が高まります。本来の意味での「助け合い」が行われ、献身的に他者を援助する結果、自尊心を向上させることができ、自分自身の自立をも得ているといえます。カウンセリング等における専門職との関係では、被援助者の役割しかとり得なかったメンバーも、グループ内では援助する側の立場に立つこともできます。相互支援の現場で、ヘルパー=セラピー原則が自然と活用され、他者を支援することで、結果的に自分自身も助けられ癒しを獲得しているといえます。
SHGの現場に限らず、日常生活の至る所でこの原則が存在しています。例えば、子ども食堂の活動において、食事のピークが過ぎてテーブルの見まもりをしていると、顔にご飯粒をつけながらモグモグ食べている子どもの姿に出会い、労力の何倍もの癒しを感じたというブログを目にしたことがあります。また、日常のちょっとした場面以外にも、災害に直面した時に、人は、しばしばコミュニティにおいて優れた愛他的・協働的なふるまいを示し、他者を助けることで大きな満足感を得ることもあります。介護は、ケアする人にさまざまな負担をもたらしますが、その反面、ケアする人に癒しをもたらすといわれます。介護現場で、認知症の方の背中に手を添えてあげると、その方の症状が落ち着くと同時にケアする側のストレスが減少することがわかっています。医師が患者さんやその家族から「ありがとう」と言われた瞬間、何か人のために役立ったのだと実感し、逆に助けられたような気になったという報告もあります。こうした援助者の感覚はメンタルヘルスに良い影響を与えると考えられますし、自身の生きるエネルギーともなり得るものです。利他的な行動は幸福感を高めるという因果関係を示す様々な研究や実験もあります。
ただ、ヘルパー=セラピー原則は、提唱者のフランク・リースマンも示唆していますが、援助が意図的に行われるよりも、無意識の内に遂行された方がより効果的といわれています。この原則は、援助者の役割をとる人の自尊心や自立心が高まることを明示しているものですが、同時に、それは、援助者が意図せざる場合において、最大限の効果が事後に見出されるという特性があります。援助を前面に押し出すと、援助される側にとっては、援助の押し売り、あるいは「大きなお世話」にもなってしまい、援助そのものが受け入れられず、援助者の役割もとれず癒されることもなくなってしまいます。この原則が効果的に作用し援助者が癒されるのは、あくまでも結果としてであって、自らの癒しを求めてこの原則を意図的に用いても効果をあげることは難しいとされています。
無条件に他者を援助することは、援助者のメンタルヘルスにも良い効用があると考えられます。自らの癒しを求めて意図的に援助するのではなく、色々な場面で、困っている人を見て助けてあげたいという心の声が聞こえてきたら、積極的に援助の手を差し延べるようにしてみてはどうでしょうか。ささやかな行為でも十分です。きっとあなたも癒されますよ。
参考
・引用
文献
カレン・ヒル:患者・家族会のつくり方と進め方(原著名 Helping You Helps me:A Guide Book For Self-Help Groups) 川島書店
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