コラム

強迫性障害

2020年2月
土井

強迫性障害とは、アメリカ精神医学会の発刊しているDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル)によれば、『強迫症および関連症候群/強迫性障害および関連障害群』に分類されている障害で、不安による症状として考えられています。

私たちは様々なことで不安になり、その不安は観念や行動になります。
 デートに行く前に服装や口臭のチェックをしたり、旅行に行く前に火元や鍵の確認を普段はやらないのに指差し確認をすることもあるでしょう。

また、習慣にしているこだわりがある場合もあります。コインパーキングは常に3番に止めたいと思ったり、スポーツ選手の中には試合の日は朝必ず右手から着替えて右足から玄関を出るなどのルーティンを持っている人も見聴きしますね。

これらはそう珍しいことではなく、いつもと同じ行動をすることで不安を解消したり、安心して集中するための大切なことといえます。
 たとえば、家の鍵をかけたか、大事な書類は持ったか、手はきれいに洗えているか、身だしなみは整っているかなど、生活上気にすることがなんらおかしくない行動です。

しかし、いつしかその確認をしないといけない、何度確認しても不安が消えない、ということになってしまうと、不思議なことに、本来自分自身を安心させてくれる大切な方法だったのが、安心するための行動に疲れ、苦しさを感じるようになってしまいます。

そのような自分や周囲が感じる、過剰な不安への対処を強迫症状と呼びます。

様々なドラマや映画に出演されている俳優の佐藤二朗さんは、ご自身が強迫性障害であったことを告白されています。
 2008年にご自身が監督・脚本・出演した「memo」という映画にその様子が描かれています。

その映画で佐藤さんは、頭に浮かんだ脈絡もない言葉をメモしないと何事も手に付かない、という症状に苦しまれていたようです。
 佐藤さん自身にも違和感があったようですが、その症状へのコントロールには大変な努力を伴ったとのことです。
 現在はやや症状が落ち着き、強い緊張がかかった時以外は支障なく仕事ができ、また、SNSを活用して頭に浮かぶ言葉を吐き出すようにしておられるようです。

佐藤さんしかり、強迫症状をお持ちの方は自身の考えや行動が、よく考えたら過剰に気にする必要がないと分かっていたり、生活が不便になるため止めたいと思っている人がほとんどです。 
 そのような強迫症状・行為は以下のように発生し、維持されていきます。

強迫症状・行為

図のように、不安になったら強迫行為をしないと不安になり、本来の不安ではなく、強迫行為ができないことへの不安も発生してしまうという悪循環に陥ります。

このような症状を生まれつき持っている方は多くありません。
 人生のどこかの瞬間、何らかのタイミングから始まることが多くを占めています。
 本来、そのように考えたり行動する必要がないにも関わらず、誤ってインプットされてしまったもの、いわば私たちの脳の誤作動と捉えることもできます。

主な強迫症状は、不潔恐怖に伴う洗浄(手洗い等)、鍵や火元などの確認、儀式行為(ルーティンの徹底等)、数字や物の配置などのこだわり、誰かに危害を与えてしまうという加害不安等、多様にあります。

手洗いに強迫症状のある方は、冬になると手を真っ赤にされる方もいらしたり、鍵かけに不安がある方はそれが原因で大切な仕事や約束に遅刻してしまうこともあり、その後の仕事や対人関係において自信を持てず消極的になってしまうなど、副次的な苦しさを伴うことが多いのも、強迫性障害の特徴の1つです。

治療法

その治療法は現在のところ主に2つの方法の併用が推奨されることが多いです。

1つは医療機関での薬物療法です。
 条件反射的に不安になってしまうことは自分の意思でコントロールを利かせることは非常に困難です。
 脳内の話では、セロトニンという人の気持ちをリラックスさせる物質が上手く作用しなくなった影響ではないか、という臨床研究が報告されています。
 そのため、これまで強迫的に行っていた思考や行動、こうしないとダメだ、と感じる不安な気持ちに対し、脳内物質を円滑に作用させることが可能な薬物療法が有効とされています。

もう1つは、認知行動療法です。
 認知行動療法については、当オフィスのコラムに認知行動療法について詳細を掲載しています(2015年2月15日)のでご参照いただければと思いますが、考え方や行動の幅を広げることで、感情や身体反応(例:震えや発汗等)も含め、コントロールしやすいものにしていこう、という心理療法です。
 これは臨床心理士・公認新心理師が実施することが多いです。

薬物療法で不安を抑えるサポートを受けながら、認知行動療法で徐々に強迫的な行動以外の考えやコントロールを身に着けていくことで、これまで行っていた強迫的行為をなくしていこうという方法です。
 前述した脳の誤作動、という捉え方をする時、この治療法は非常に合理的であると言えます。

ただし、すべての強迫症状・行為をこの治療法だけで行うのではありません。
 人生において大きな引っかかりがある場合、それを癒すことで強迫症状も落ち着いていったり、そもそもこうした症状に対する不安な気持ちを共有することで症状が軽減する場合もあります。

もしも強迫と言われる症状で悩まれておられるならば、ご自身にあった方法を当オフィスのカウンセラーが一緒に検討し、協力して実践していくことができます。よろしければ、ご一緒に不安との付き合い方を考えていきましょう。